ピアソラから学ぶイノベーションの原動力

昨年12月に日本でのロードショーが始まった映画『ピアソラ 永遠のリベルタンゴ』を観た。タンゴ界の革命児と呼ばれる作曲家・演奏家のアストル・ピアソラを扱ったドキュメンタリー映画で、クラシックやジャズの要素を取り入れながら、従来の“踊るためのタンゴ”から“聴くタンゴ”へ、まさに「イノベーション」を彼が先導した。

しかし、いつの時代もイノベーションは、社会的な反発を生む。ピアソラも「あなたの音楽はタンゴではない」と激しく非難され、時に命すら狙われた。ピアソラほどの才能に恵まれた人であれば、世間が望む曲をつくり、手早く高い評価を得ることも難しくなかったはず。

しかし、彼はそういった穏便な道には目もくれなかった。攻撃的な性格といえばそれまでだが、自らの理想を音楽として実現することに邁進する。ニューヨーク時代には食事にすら困る生活を送りながらも。

なぜ、彼は安易な道に逃げることなく、自らの理想を追求する道を進み、イノベーションを起こせたのだろうか。映画を観ながら、そのことばかりをずっと考えていた。

もちろん、明確な答えがあるわけではない。さまざまな要素が絡み合ってのことだろう。

しかし、ピアソラの場合、最大の原動力は父・ビセンテの存在ではないかと思う。ビセンテはタンゴ音楽の愛好家に過ぎなかったが、「父が私のことを(タンゴの)天才だと信じてくれたから」こそ、ピアソラは生涯にわたって挑戦し続ける原動力を得たのではないだろうか。

ピアソラやタンゴが好きな人はもちろん、何かと闘っている人にとって、その無謀な挑戦をそっと後押ししてくれる94分だ。